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REPORT

安全管理のシクミと運用

2013.10.08

建設業のPDCA 【安全管理のシクミと運用】

1.システムの導入と「研究会」

1. ISOの導入

弊社は、会社の成長と同時に、職員数も増え、作業に従事する者と技術管理する者の格差や社員同士の曖昧な責任関係、業務のルールなど改善すべき事が多々発生しました。また時代の流れとともに、安全管理、品質管理などの顧客のニーズが急激に変化していきました。
このような問題点を解決する為に、当時1997年、建設業界がISOに興味を示し始めた時期に、ISOのシステムを会社経営の一つのツールとして、導入することを考えました。
導入にあたっては、社長の強い意志により、このISOの認証所得をコンサルタントに全く頼らず、社員のみの自力によって、取得することを決め、2000年12月に認証取得をすることができました。

2. OHSMSの導入

ISOの認証取得が完了した後、時代のニーズでもありましたOHSMSの導入を決め、既に導入していたISOのシステムと平行して、運用を開始しました。元来、考え方が同じであるこの2つのシステムを弊社では、無駄なく運用するために、ISOとOHSMSを同じシステムに取り込み、運用をすることとにしました。これより、ISOの外部審査機関による更新審査の内容には、労働安全衛生プロセスを含みますので、その内容も審査機関による外部監査が適用されるというわけです。 
本日の私の発表は、このISOやOHSMS等のシステムを会社の管理のシステムとして、どのように解釈して導入したか、会社のシクミであるシステムが’絵に書いた餅’にならないように、会社に対して、どのようにローカライズすれば、災害が無く、顧客から信頼される企業へ転換できるのか、を弊社の考えを要約してお話してみたいと思います。

3. QMS研究会

ISOとOHSMSのシステムの導入にあたっては、「QMS研究会」を立ち上げることから始めました。これは、ISOそのものの理解をするため、また会社のシクミを新たに設けるために、どのようなスタンスで望み、どのようなアプローチをするかを考えるために設置したものであります。
今までに、この研究会で、議論を交わしてきた主な内容が以下の項目です。

① 仕組みとシクミ

ア) 「文書(documents)」と「記録(records)」の違いを理解すること。
イ) 仕事の手順を文書化すること。
ウ) 計画通りに仕事を実行する。
エ) その点検確認を記録する。
オ) その結果を反省し、次の計画に生かす。

② 工場生産と建設業の違い

建設業は、工場生産の製造業とは、大きく異なり、以下のような特徴があります。

ア) 固定した場所での生産ではない。
⇒建設業は、工場のような固定した建物の中で、モノを生産することが無いため、常にその施工場所の変化に対応して、施工しなければなりません。

イ) 全く同じ人員で生産に携わることがない。
⇒人員は、絶えず、変化するので、それに対応した管理が必要です。

ウ) 全く同じ物を二度とつくらない。
⇒設計が全く同じ物でも、場所の条件が変わるだけで、施工の手順、施工方法も大きく変わることがあります。

エ) 作業環境が常に変化する。
⇒特に土木工事は、その場所の土質、水、気象条件、交通条件など様々な条件にから拘束されながらの施工となります。これらの特徴から、建設業では、何をしなければならないかを考えなければなりません。

③ 施工業者としての「当社の品質」

私共「施工業者にとっての品質とは何か・・・」この課題は、常に私たちが考えているテーマであります。
施工業者の品質とは、施工した構造物の確かな品質を保つこと、これは当たり前のことですが、施工のすべての過程において、顧客からの信頼を得なければ、良好な関係を継続することはできません。
そのためのポイントは以下のとおりと考えました。

ア) 施工体制をしっかりと構築すること

イ) 施工体制で充分な力を発揮させるシクミを構築すること

ウ) 経験と能力を備えたリーダーシップを発揮する所長・職長を配置できること

つまり施工業者としての弊社における品質とは、受注、生産、引渡しにいたる全ての過程において、指揮命令系統、責任関係がしっかりとした組織をつくり、その組織の中で、シクミが構築されていて、顧客の要求を的確に捉えて、顧客の満足を向上する運用をリーダーがしっかりと行っている状態。

2.シクミと運用

1. PDCAサイクルを回転させる

先に述べたように、建設業では、工場生産のような製造業と比較して、シクミを運用することを阻害する特徴が多々あります。目まぐるしく、人員、作業条件、手順などが変化する建設業では、それを常に管理するPDCAサイクルを回転させるシクミと、現場で指揮を執る職長の経験と能力が最も重要であります。
安全管理の基本であるPDCAサイクルを現場で回転させる為には、まず生産活動を行う現場の者が直接、実施することが基本であります。

 

 

2. 「作業安全指示書」によるPDCAサイクルの回転

現場において、このPDCAサイクルを回転させるためには、その現場で働く者、自らが(P)の計画をすることから、始めなければなりません。
弊社で運用している「作業安全指示書」の内容は、次のとおりです。

 

 

 

 

「作業安全指示書」の内容

① :職長が作成する「作業手順」 ⇒ 一日の「作業内容」、「作業手順」

② :一日の作業の「人員配置」、「使用機械や作業工具」の計画
①、②で一日の作業計画の指示を行います。

 

③ :職長と作業員が実施する「危険予知とその評価」

④ :その低減策。
③,④でリスクアセスメントを行います。

⑤ :①②③④で行った計画を作業員全員に周知徹底したことを確認し、全員のサインを受けます。
同時に、作業員一人一人の健康チェックの自己申告を行います。
その後、この「作業安全指示書」とともに、現場に場所を移し、作業を開始します。各作業班の職長と所長は、この計画を的確に実施しているかを巡視、点検し、その点検記録を現場に掲示している、この「作業安全指示書」に記録します。

⑥ :作業終了時に、本日の作業の結果として、反省やヒヤリハットの有無など、を職長が確認し、記録し、明日の作業の計画面に反映させます。

というように、この「作業安全指示書」一枚によって、一日の作業の中でのPDCAが確実に展開されています。

3. 「作業安全指示書」の流れ

この「作業安全指示書」の流れを整理すると、

計 画(P)

⇒各作業班の職長が作業計画を行う
⇒所長が職長の作業計画を確認する
⇒職長が作業員に作業指示を行う
⇒職長及び作業員がリスクアセスメントを行う
⇒職長のリーダーが重点注意を行う
⇒元請が全体打合せを行う

施 工(D)

⇒作業開始

点検確認(C)

⇒職長による現場点検
⇒所長による巡視

是 正(A)

⇒職長による反省記録、ヒヤリハット
⇒所長による計画の変更指示

この「作業安全指示書」の運用により、現場の隅々にわたり、この小さなPDCAサイクルを回転させるシクミをより確実に行える状態を保ち、各職長は、恒常的に各作業員に対して、リーダーシップを発揮し、より効果的な安全管理が展開されるよう全体の所長が管理していくことが弊社の安全管理の基本としています。

3. 災害の原因

1. ヒューマンエラー

今まで述べてきたような安全管理をしていった結果、弊社においても、災害が無くなることはありえません。現場では、危険な場所がなくなることはありません。語弊があるかもしれませんが、現場での災害が全く無くなることはありません。 しかし我々は、それを最小限にとどめる努力を絶えず継続しなければならないのです。その分析をすると、やはり最も多い発生原因は、ヒューマンエラーによるものです。

その分類は様々ですが、日本建設業団体連合会の建設労務安全研究会が人的欠陥に基づくヒューマンエラーを次のように分類しています。

 

 

 

グラフを見て、判るように、「危険軽視・慣れ」「近道・省略行動本能」「無知・経験不足」この3つのヒューマンエラーの要因だけでも、83%を超えています。
この3つの要因は、果たして作業員個人だけの責任といえるでしょうか・・・ヒューマンエラーは、組織的な安全管理で必ずしも防げるものではないものですが、作業手順、人員配置、KY、リスクアセスメントがしっかり行われ、PDCAのサイクルを回転させていけば、かなりのエラーは低減することができるはずであります。ヒューマンエラーによる災害であると、単に決め付けるのではなく、その原因をその現場のシクミや運用に言及して、影に潜む真の原因を捕らえて、それを 改善することが災害撲滅への一歩であると考えています。

2. ボトムアップとトップダウン

会社の方針や作業の指示は、常にトップダウンが重要であると言われますが、大きな組織になればなるほど、災害を引き起こす作業員一人のことは、トップの目が行き届いていません。管理者の目が行き届いていないから、災害が起こるのです。
強引なトップダウンによる本末転倒な指示をすることにより、現場の組織が機能しなくなることが多々あります。トップダウンを実行するためには、作業員一人一人を把握している職長の考えをボトムアップさせて、それを分析し、適切なトップダウンの指示を行うことが重要であります。
リーダーシップを発揮する為には、現場で働く者の意見を充分取り入れて、それを上手く組織力を発揮して、生かすような指示をすることがポイントであります。ものつくりに携わっていることの原点にかえり、物つくりの最先端の情報を取り入れて、現場の管理をすることが最も重要であるということであります。

4. 結論

1. 「作業安全指示書」を展開する組織

前述のとおり、弊社では作業班ごとの生産体制の最小単位で、PDCAサイクルを回転させる為に「作業安全指示書」を使用しています。この「作業安全指示書」は、現場で日々作業に従事するものが目の前にある現場の状態を見極めて、その日、一日の計画、KY、リスクアセスメント、点検、巡視、などのPDCAのサイクルを展開するツールとなっています。
図に示すような大型現場の施工体制では、特に、最小単位の施工班ごとに、この「作業安全指示書」を運用することがポイントになります。弊社の職員ではない、二次協力会社の専門工事業者の職長がこれを実施する為には、いくらかの時間が必要となりますが、大きな組織で、均一した管理体制と考え方を持ち合わせることが重要と考え、これをどのような施工体制になっても、これを実施することにしています。図に示すような施工体勢の場合、一日の「作業安全指示書」は、作業班ごとに作成され、15枚作成され、それぞれの作業班ごとにPDCAサイクルを展開することになります。 
大きな組織になればなるほど、作業員一人一人の状態を確認することがおろそかになります。これを防ぐには、大きな組織を分解して、小さい組織の集合体によって、小さなPDCAサイクルを回転させ、その集合体の組織全体で大きなPDCAサイクルを回転させる運用を行うことしかありません。

 

 

 

 

2. システムのローカライズとその運用

流行のように押し寄せたISO認証取得やOHSMSのシクミによって、自社の歴史や強みを捨てたくはなかった為に、 これらの導入や運用には、かなり苦労しましたが、次の4つのポイントをおさえて、「塩月工業式の仕組み」が運用されてきたと考えています。

① システムの構築は、会社の実情にあった仕組みにローカライズすること。
② 最小単位のPDCAサイクルを回転できるようにさせること。
③ 小さなサイクルを大きなサイクルに展開させること。
④ ボトムアップからトップダウンを行い、適切な管理を行うこと。

西欧の文化から発信された、ISOやOHSMSなどのカタカナのシクミは、その企業の伝統、文化、能力、顧客のニーズなどの実情にあった漢字の’仕組み’に変換し、施工業者として、ものつくりの原点に立ち、職長による最小単位のPDCAサイクルを回転させながら、会社全体の大きな目標である災害撲滅へ第一歩になると考えています。

 

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